外国特許の包括委任状について

概要
発行月
2023年4月
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概要

お客様より、包括委任状に関するお問い合わせをいただきました。今回は各国の包括委任状の実務について現地代理人に確認した事項を紹介いたします。

※問い合わせ先:アラブ首長国連邦、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、欧州特許、ドイツ、イギリス、フランス、インドネシア、イスラエル、インド、イタリア、韓国、メキシコ、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、タイ、台湾、米国、ベトナム

目次

  1. 包括委任状の意義
  2. 委任状が不要な国/包括委任状が認められていない国
  3. 提出方法について(原本提出の要否/公証・認証取得の要否)
  4. 再提出について

1.包括委任状の意義

包括委任状とは、出願人が代理人に対し、特許出願等の手続きについて案件を特定せず包括的な代理権を授与したことを証明する書面です。包括委任状を特許庁に提出した場合、代理権を証明する書面の提出を必要とする個別手続きにおいて包括委任状を援用することにより、代理権の証明を行うことができます。出願をする代理人または出願時に提出する代理人選任届により選任した代理人以外の者は、この包括委任状を援用することができません。

2.委任状が不要な国/包括委任状が認められていない国

(1)欧州特許、ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドでは、特許庁に登録された代理人が出願手続きを行うことにより代理人認定されるため、出願人が署名した委任状の提出は要求されません。代理人変更や代理人の代理権行使に疑義がある場合にのみ委任状の提出が要求されます(シンガポールではこれらの場合でも委任状の提出は要求されないのが実務のようです)。

(2)マレーシアやインドネシアでは包括委任状の使用が認められていません。しかし、個別案件委任状フォームの発明の名称と出願番号が空欄のものに出願人から署名してもらい、個別案件ごとに空欄を埋めて使い回し、包括委任状のように使用している現地代理人もいます。

3.提出方法について(原本提出の要否/公証・認証取得の要否)

(1)韓国、タイ、ベトナムでは原本を提出する必要があります。それ以外の国は電子データでの提出が認められています。インドも電子データでの提出が認められていますが、特許庁より原本提出要求があった場合に15日以内に提出しなければならないため、現地代理人は出願人に対して原本提供を依頼します。電子署名まで認められている国は限定的です。米国ではS-signatureが認められ広く利用されています。他の国でも電子署名が認められているようですが、特許庁指定の認証方法や認証機関による認証が要求される、運用が不明確などの理由で、多くの現地代理人は手書き署名(手書き署名してカラースキャンPDFデータの提出)を勧めています。

(2)公証・認証の取得について、公証が必要な国はアラブ首長国連邦とタイです。領事認証も必要な国はサウジアラビア、アポスティーユ認証も必要な国はアルゼンチンとメキシコです。メキシコは特許出願手続きのみを授権する委任状であれば、公証とアポスティーユ認証がなくても、署名者自身が代理人を委任する権限を有する旨を述べ、権限由来が明示された委任状に署名したものでも受理されます。上記以外の国は公証・認証は不要です。

4.再提出について

(1)委任状には出願人の名称、住所、署名者、および、代理人の名称や住所などが記載されています。これらが変更された場合に包括委任状を再提出する必要があるのか各国代理人に問い合わせました。委任状は出願人が代理人に授権することを証明する書面ですので、当事者に関する記載内容に変更があるとき、特に出願人の商号変更や吸収合併などで会社名を変更した場合または代理人を変更した場合は、最新版の包括委任状を提出する必要があるというのが現地代理人の一致した見解です。さらに、審査官が代理人の代理権行使に疑義を持った場合も委任状の再提出が求められることがあります。一方で、委任状は署名者ではなく会社と代理人との授権を証明するものであることから、署名者の変更は「当事者に関する記載内容」に該当しないというのが各国の実務のようです。

(2)住所変更が「当事者に関する記載内容」に含まれるかについて、イタリアとタイでは含まれるとして委任状の再提出が必要のようですが、他の国では必須ではないようです。もっとも、住所変更以降に新規出願する場合は出願人住所は最新のものを使用しますので、出願時に提出する委任状も最新の住所が記載されていなければなりません。この意味で、実質的には住所変更時に包括委任状も再提出されることが多いようです。

(3)最新版の包括委任状を使用しない手続きは特許庁が受理しない場合がありますので、注意が必要です。