概要
カナダ特許庁は2023年6月21日付で特許規則改正案を公表しました。主な内容は特許庁手数料の大幅な値上げです。本規則は2024年1月1日に発効します。今回はカナダ特許規則改正について特許庁手数料の値上げを中心に紹介いたします。
目次
- 特許庁手数料の値上げ
- 小規模事業体(Small Entity)の定義拡大
1.特許庁手数料の値上げ
(1)カナダ特許庁は2004年以降において手数料の実質的な調整を行ってきませんでした(※)。その結果、2004年当時との比較で約30%のインフレと28%の人件費増加、さらに出願件数の増加や設備投資など、様々な運営上および財務上の要因が重なり、特許庁は危機的な財務状況に陥っています。カナダ特許庁は、現在の予測に基づくと2024年9月までに特許庁の資金が枯渇すると予想されており、イノベーターや企業に対するサービスに影響を及ぼすと発表しています。
※カナダ政府の手数料設定は2004年に制定された連邦利用料法(The Federal User Fees Act)において規定されていました。同法は政府手数料を設定または増額するための要件を非常に厳格に定めていました(これが長い間カナダ特許庁費用の調整を行うことを妨げてきた一因との指摘がありますが、カナダ特許庁は最後の黒字会計年度は2015年度だったとしています)。同法は2017年に廃止され、サービス料金法(The Service Fees Act)が制定されました。サービス料金法では料金設定の要件が緩和され、かつ、会計年度ごとに前年度の消費者物価指数に基づく手数料の調整が可能になりました(例えば、出願費用は2004年~2020年の間は400カナダドルでしたが、2021年に408カナダドル、2022年に407.18カナダドル、2023年に421.02カナダドルと消費者物価指数に合わせて変動を続けてきました)。
(2)今回の手数料改定は2004年以来の約30%のインフレに追いつくため、ほとんどの項目が変更前の金額を基準に30%~36%値上がります。新しい手数料は2024年1月1日以降の特許庁宛納付に適用されます。内容は以下のとおりです(1カナダドル($)=110.00円で換算しています)。
※請求項超過費用は21項から1項毎に、頁超過費用は101頁から1頁毎に、それぞれ加算されます。
※小規模事業体(Small Entity)の手数料(上記通常手数料の半額)は一部の項目において現在(変更前)の金額より最大約10%値上げされますが、全体的に大きな変更や値上げはありません。
(3)カナダで新規出願、係属中案件の審査請求や特許料納付、登録済案件の年金納付などをご予定の場合は、現地代理人の手続きが混み合う可能性があるため、2023年内の早いタイミングでご依頼ください。
2.小規模事業体(Small Entity)の定義拡大
(1)現在のカナダ特許規則は小規模事業体を、特許出願時に従業員が50人以下の事業体または大学であり、大学以外で50人を超える従業者を有する事業体(大規模事業体)によって直接的または間接的に管理されていない、または大規模事業体に譲渡もしくはライセンス供与されていない事業体と定義しています。
(2)2024年1月1日以降は、従業員数が「50人以下」から「100人未満」に変更されます。このため、より多くの企業が小規模事業体の資格を得ることができるようになります。この定義は、カナダ財務委員会事務局等で使用されている定義に合わせて変更されました。
(3)小規模事業体か否かは出願日(PCTルートの場合は国内段階移行日)時点で決定され、以後従業員数に変更があっても決定時の資格は維持されます。例えば、出願日の時点で従業員が10人である会社が小規模事業体の資格を取得し、その後従業員が100人を超えるまでに成長した場合でも、依然として小規模事業体としての資格を持ちます。