インドネシア特許 実施報告義務について(現状報告)

概要
発行月
2025年9月
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概要

2024年のインドネシア特許改正法(№65/2024)において特許実施状況声明書の提出が義務付けられました(第20条A)。しかし、その施行規則が制定されず、運用開始が正式に発表されないまま現在に至っています。ところが、インドネシア特許庁は声明書のフォーマットをホームページで公開しています。声明書の運用が急に始まる可能性もあるため、複数の現地代理人に現在持っている情報を確認しました。今回はインドネシア特許の実施報告義務について現状を紹介します。

目次

  1. インドネシア特許法第20条A
  2. 現地代理人に確認した情報

1.インドネシア特許法第20条A

「第20条にいう特許権者は、インドネシアにおける特許の実施に関する声明を作成し、毎年末までに大臣へそれを通知しなければならない。」

 第20条は、特許権者に対しインドネシア国内における特許実施(特許を受けた物の製造または方法の使用)を義務付けています(第1項)。改正法では第20条の後に特許実施状況声明書の提出義務が規定されました。提出書類は「声明書」、提出期限は「毎年末」とされていますが、これ以上の詳細については不明です。

2.現地代理人に確認した情報

(1)運用開始時期
ほとんどの現地代理人が開始時期は不明としています。しかし、インドネシア特許庁のオンラインシステムで声明書が提出可能な状態になっていることから、2025年内に開始されると予測する見解もあります。

(2)対象案件
全ての有効なインドネシア特許が対象です(未実施の特許も含む)。年金不納や権利満了で失効した特許は対象外です。

(3)提出書類 ※インドネシア特許庁フォーマットをご参照ください。<リンク
フォーマット上で要求されている情報を記載した書面を提出します。特許庁フォーマット(PDF)でなくてもよく、現地代理人はWORD形式に替えたフォーマットを用意しています(代理人により多少の体裁カスタマイズ有)。
①上段:当該特許権の情報として、特許権者名、特許権者住所、特許番号、発明の名称を記載します。
②中段:列挙された実施類型の中から該当するものを選択(☑)して声明します。実施の証拠は提出不要です。
③下段:「声明内容が虚偽であることが証明された場合、本声明書は無効とみなされ、法規に従い制裁を受けることに同意する」との記述に対し特許権者が署名します(知的財産部長の署名でも可)。電子署名も認められますが、インク署名のような外観であることが必要です。共同名義の場合、フォーマット上は(I)、(II)と複数の特許権者の記載や署名が予定されているため、全ての名義人の署名が必要という解釈が一般です。
④声明書の原本は提出不要です(スキャンコピーで受理されます)。認証取得は要求されません。

(4)提出期限
条文上は「毎年末」とされていますが、インドネシア特許庁に確認した現地代理人の情報は以下のとおりです。
①特許局長は「暦年の末日」(毎年12月31日)という見解であることを口頭で確認した。
②特許庁内の担当者によって、「暦年の末日」、「特許保護年度の末日」、「出願応当日」などと解釈が異なる。③特許庁内部において、手続き効率化を図るために声明書提出と年金納付の期限を合わせる提案もある。
※年金納付期限は出願応当日の1ヶ月前です。
※既に付与された特許は2025年12月31日、それ以降は出願応当日を提出期限とする見解もあります。
※提出期限延長の可否については不明というのが多数見解です。

(5)提出費用
庁費用は発生しません。現地代理人手数料について、最も多い回答はUS$150.00/1件でした。

(6)不提出に対する罰則/制裁
特許実施状況声明書の不提出に対する罰則/制裁規定は現時点でありません。しかし、実施義務不履行に対して強制実施権(第82条第1項第a項)や取消請求権(第132条第1項第e項)が認められることに鑑み、声明書不提出に対してもこれらの権利が認められる可能性があるため注意が必要というのが一般的見解です。

現状はインドネシア特許庁による運用開始の正式発表を待つのみです。提出期限について解釈が分かれていますが、運用の大枠は見えてきました。運用開始となりましたら改めてお知らせします。