概要
中国では2024年4月に専利審査指南(審査基準に相当)の改正案が公表され、2025年11月10日付通知により正式公布されました。施行日は2026年1月1日です。現行実務への影響は大きくありませんが、細かいところで注意が必要です。今回は本改正のうち手続き管理に関する主な内容について紹介します。
目次
- 発明者の身元情報の要求(第1部第1章第4.1.2の第1段落)
- 分割出願時の優先権主張(第1部第1章6.2.1.2および6.2.2.2)
- 特許出願と実用新案出願の同日出願(第2部第3章6.2.2の最終段落)
- 優先権譲渡証の署名者(第3部第1章5.2.3.2)
- 快速審査(第5部第7章第8.3節)
1.発明者の身元情報の要求(第1部第1章第4.1.2の第1段落)
(1)現在の願書は第一発明者の身分情報のみ記入することが要求されていますが、改正審査指南では全ての発明者の身元情報を記載し、その情報が真実であることを保証しなければならない旨規定されました。
(2)発明者の身元情報に関し、中国国籍の発明者は氏名、国籍、およびID番号が要求されますが、中国以外の国籍の発明者は氏名および国籍のみで足ります。パスポートなど身分証明書の提供は一般的には不要だが、審査官が情報の真偽に疑義を持った場合には必要というのが現時点での複数現地代理人見解です。
2.分割出願時の優先権主張(第1部第1章6.2.1.2および6.2.2.2)
親出願が優先権主張しているが、分割出願が願書に優先権主張する旨を宣言していない場合、分割出願は優先権主張していないものとみなされ、審査官は優先権主張していない旨の通知を発行すると規定されました。現在の実務を審査指南に明文化にしたものですが、実際の手続きは現地代理人が分割出願の願書に優先権主張する旨を記載することで対応でき、出願人における対応は予定されていません。
3.特許出願と実用新案出願の同日出願(第2部第3章6.2.2の最終段落)
(1)現行審査指南は、同一出願人が同一の発明について同日(出願日のみをいう)に実用新案特許と発明特許の両方を出願し、既に付与された実用新案特許権の存続期間が満了しておらず、出願人が出願書類において別個の記載をしているという場合、発明特許出願の補正、または実用新案特許権を放棄することで二重授権を回避することができると規定しています。
(2)改正審査指南では、出願人は各出願書類に同一発明に関し別の出願をしたことを明記する必要があります(明記しない場合、同一発明に対して1つの発明特許権のみ付与されます)。また、二重授権回避方法は実用新案特許権の放棄のみとなります。
4.優先権譲渡証の署名者(第3部第1章5.2.3.2)
現行審査指南は、外国優先権と国内優先権の主張に関し、優先権主張する後続出願の出願人が先行出願の出願人と一致していなければならず、一致していない場合は後続出願の出願人が優先日から 16 ヶ月以内に「先行出願の出願人全員」が署名または捺印した優先権譲渡証を提出しなければならない、と規定しています(第1部第1章第6.2.1.4および6.2.2.4)。これに対し、PCTルートの優先権主張に関しては署名/捺印者を「譲渡人」と限定しています(第3部第1章5.2.3.2)。改正審査指南では、PCTルートに関しても署名/捺印者を「譲渡人」から「先行出願の出願人全員」に修正し、他の規定の表現と一致させます。
5.快速審査(第5部第7章第8.3節)
(1)第一出願人が中国国籍の企業であり、かつ、中国の特定機関による予備審査に合格して所定審査要件を満たした特許出願は、快速審査の対象となる旨の規定が追加されました。現在も実際に行われている快速審査を審査指南に明文化したものであり、従来の実務に実質的な変化はありません。
(2)第一出願人が中国企業でかつ地方知的財産保護センターに登録されている必要があるため、日本企業による利用は原則として不可です。共同出願人が中国籍の企業であり、かつその中国籍企業出願人が予審資格を獲得できるのであれば、快速審査を申請することは可能です。ただし、資格を申請する際に全ての出願人の名義で申請する必要があります。