欧州特許のten-day rule廃止

概要
発行月
2023年10月
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概要

欧州特許庁は、特許付与手続きのデジタル変革を促進するため、2022年10月13日付で欧州特許付与に関する条約の施行規則の一部変更を採択しました。これに伴い、いわゆるten-day ruleが2023年11月1日より廃止されます。今回は欧州特許のten-day rule廃止について紹介いたします。

目次

  1. ten-day ruleとは
  2. 改正後(ten-day rule廃止後)の通知擬制
  3. 中国特許の「15日後の受領推定」

1.ten-day ruleとは

(1)欧州特許庁は、決定、召喚状、その他通知であって期限起算の基礎となるもの(Rule 94(3)拒絶理由通知やRule 71(3)特許付与予定通知など)を関係者に対し通告します。期限の計算は関係者が通告された文書を受領した日から開始されます(規則131(2))。通告が郵便/電子通信によって行われた場合、遅配リスクを考慮して当該文書はそれを郵便サービス提供者に引き渡した後/電子通信により送信した後から10日目に名宛人(代理人が選任されている場合は代理人)に配達されたと見做されます(規則126(2)、127(2))。この通知擬制をten-day ruleと呼びます。

(2)現在、欧州特許庁が発行する文書の99%は2011年に開始したメールボックスサービスによる電子通知を通して配信され、大多数の欧州特許代理人がこれを利用しています。また、欧州特許庁は郵便/メールボックスで配達/配信される書類の追跡において信頼性の高いシステムを持っています。この状況下では遅配リスクの可能性は極めて低く、ten-day ruleによる通知擬制は存在意義を失いました。替わって、デジタル世界における即時通知の原則を反映した新たな通知擬制が導入されることになります。

2.改正後(ten-day rule廃止後)の通知擬制

(1)2023年11月1日より発行される文書には新たな通知擬制が適用され、郵便及び電子通知は文書の日付において配達されたと見做されます(改正規則126(2)、127(2))。文書の日付は、郵便は文書が郵便サービス提供者に引き渡された日、電子通知はメールボックスに電子的に送信された日になります。

(2)名宛人が文書を受領しなかった場合、または受領が遅れた場合、名宛人がその通知に異議を唱えると欧州特許庁は文書の交付とその日付の両方の立証証明を負います(立証責任の点は改正前後で変更無し)。

①文書が届かない場合、欧州特許庁が文書の交付を証明できないときは通知擬制が適用されず、その文書の期限は開始されたと見做されません。当該文書は新しい日付で再発行され、その日付に基づき通知擬制が適用されます。

②文書の受け取りが遅れた場合、欧州特許庁が文書の日付から7日以内にその文書が名宛人に届いたことを証明できないときは通知擬制によって開始する期限がこの7日間が経過する日数だけ延長されます(新たな保護規定/改正規則126(2)、127(2))。例えば、欧州代理人が2023年11月13日付発行の拒絶理由通知を12日後の2023年11月25日に受領した場合、応答期限は通常の応答期間の4ヶ月より(12日-7日=)5日間延長され2024年3月18日になります。

(3)期限の計算は文書の見做し受領日(文書の日付)から開始されます(改正規則131(2))。

(4)2023年10月31日付発行の文書が2023年11月2日に郵便サービスにより名宛人に配達される場合、文書の日付は2023年11月1日より前であるためten-day ruleが適用されて文書の日付から10日目に通知されたと見做されます。

3.中国特許の「15日後の受領推定」

(1)欧州特許のten-day ruleと同じ趣旨で中国特許にも「15日後の受領推定」があります。これは中国特許庁が発送する各種書類は書類発送の日より満15日経過した日を当事者の書類受領日と推定するものです(中華人民共和国専利法実施細則第4条、専利審査指南第5部分第6章2.3.1)。

(2)中国特許庁も電子的方式の発送を行っていますので、この推定も廃止になるかを中国の複数の代理人に確認いたしました。結論は、現時点で廃止の予定はないとのことです(中国特許庁の審査官に廃止予定はないことを確認したという代理人もいました)。

(3)しかし、2022年10月31日付で中国特許庁が公布した専利審査指南改正案において、「電子形式で送達される通知及び決定は、当事者が承認した電子システムに入力された日に送達された日と見做される。当事者が承認した電子システムに入力された日が、通知及び決定の発行日と一致しない場合、出願人が証拠を提出しない限り、通知及び決定の発行日が送達日と推定される」と記載されていました。本件問い合わせ先の代理人のうち半分はこの記載を受けて、中国特許庁が15日後の受領推定を廃止する意向であると考えています。
※続報(2023年12月):改正された専利法実施細則および専利審査指南の施行が決まり、中国特許庁が電子発行する通知・決定において15日後の受領推定が廃止されます。施行日は2024年1月20日です。

(4)専利審査指南改正案は未確定で実施も未定です。しかし、中国特許においても15日後の受領推定が廃止される日はそれほど遠くないように思われます。