概要
お客様のご意向に基づき放棄した特許/特許出願に関し、ご事情により権利の回復を目指すことがあります。対象国、またはその案件状況により回復の難易度が異なり、結果は一律ではありません。今回は、米国、欧州、中国、および、韓国における権利回復の概要(具体例ではなく一般的な内容)を紹介します。
目次
- 米国
- 欧州
- 中国
- 韓国
1.米国
(1)手続き期限の徒過が故意でなかった場合(Unintentional)、放棄した出願/特許権の回復を申請できます。米国特許庁は通常、出願人/特許権者の誠実義務を根拠に、「故意でなかった」旨の陳述に対し詳細な説明を求めることなく(代理人が申請書の”Unintentional”を宣誓する欄に✓して署名)、庁費用USD2,260の納付、および、不履行した手続きの対応と併せて申請を受領します。一方、米国特許庁は、放棄日(不履行した手続きの期限満了日)より2年以上経過した申請は遅延全体が故意でなかったことに疑義が生じるという理由で、詳細な説明を要求します(庁費用もUSD3,000に値上がります)。
(2)”Unintentional”の解釈は、例えば、事実誤認はそれと認められ得るが、放棄後の事情変更に伴う翻意は認められないなど限定的です。代理人費用も(事案によりますが)放棄日より2年経過前と2年経過後で大きい差があります。回復申請は放棄日より2年経過前が重要な目安です。もっとも、代理人自身も”Unintentional”と認識して署名するため、2年経過前であっても代理人が故意でなかったと納得できる情報の提供が必要です。
2.欧州
(1)手続き期限を徒過しても(一部を除き)手続き続行(Further Processing)を申請できます。申請は期限徒過または権利喪失の通知(Noting of loss of rights)より2ヶ月以内に、庁費用EUR350(庁費用納付が必要な手続きはその金額の50%を追加)の納付と併せて行います。不履行した手続きも同期間での完了が必要です。
(2)Further Processingを申請せず(またはその適用外手続きで)、要求される当然の注意(All Due Care)を払ったが手続き期限徒過により出願/特許権を喪失した場合、権利回復(Re-Establishment)を申請できます。申請は期限を徒過した理由の除去(申請者が権利喪失を認識した時)より2ヶ月以内、かつ、不履行した手続きの期限日より1年以内に、庁費用EUR790の納付と併せて行います。Re-Establishmentの期限の延長(Further Processingの利用)はできません。不履行した手続きもこの期間内に完了する必要があります。
(3)”All Due Care”は、意図せず期限徒過しないための複数の安全策を講じることが求められ、例外的状況や単発的ミスが原因の場合に認められる可能性があります(米国の”Unintentional”だけでは不十分とされます)。代理人費用も(事案によりますが)Further ProcessingとRe-Establishmentで大きな差があるため、Further Processing(適用外の一部手続では同趣旨で認められている救済措置)での回復が現実的です。
3.中国
(1)①不可抗力の事由により手続き期限を徒過し権利を喪失した場合、障碍の解消日より2ヶ月以内、かつ、不履行した手続きの期限日より2年以内に、また、②(①の状況を除き)その他の正当な理由により手続き期限を徒過し権利を喪失した場合、権利喪失通知の受領日より2ヶ月以内に、権利の回復を申請できます。申請時に理由と証明書類の提出、不履行した手続きの対応、および、(②のみ)庁費用CNY1,000の納付を行います。
(2)「不可抗力の事由」は、自然災害(地震、洪水)、事変(戦争、ストライキ、交通規制)、政府対応(緊急封鎖、強制執行)等が該当します。Covid-19以降はほとんど認められていません。これに対し「正当な理由」は比較的容易に認められます。一部の現地代理人は、「コミュニケーションがうまく取れず、期限に間に合わなかった」と記載するのみが通例としています。権利喪失通知受領日より2ヶ月以内での対応が円滑に権利回復できます。
4.韓国
(1)正当な理由で審査請求/再審査請求の期限を徒過し出願取下げ/拒絶確定した場合、その事由の消滅日(事由を認識、解決して期間遵守が可能となった日)より2ヶ月以内、かつ、期限日より1年以内に、審査請求/再審査請求できます。年金に関して、追納期間での不納/補填期間での不補填により特許権が消滅した場合、追納期間/補填期間満了日より3ヶ月以内に納付すべき金額の2倍を納付して権利の回復を申請できます。上記以外の手続きは権利の回復の規定がないため認められません。
(2)「正当な理由」は、故意でなかったという事実のみの証明では認定されません。過失を権利の回復が可能な事由として認められた事例も殆どありません。権利の回復は認められる範囲が狭く、全般的に難しい状況です。
詳細な事実や理由の説明、証拠の提出が必要となる場合、代理人は権利回復の可能性が低い旨を説明し、断念を勧める傾向があるように感じます。最終的には費用対効果の視点で判断することになると思われますが、どうしても権利回復を目指すというときは、まずは代理人をその気にさせることが肝要です。